和歌にはウムラウト

ドイツ語の単位を落としたマンの日記

カンガルー

他人の人生に触れる感覚が好きです。という話を友人にすると、必ずと言っていいほど疑問符が飛んでくる。まあ、当たり前、当然の反応。

 

大学での数少ない友人に借りた有名作家Mの短編集を読むなどした。あまりに有名で避けてきたが、借りといて読まないのはどうだろう、ということで読んでみた。結論から言うと、あまり好きにはなれない感じだった。ただ、短い物語の中の登場人物たちの繋がり具合が自分には心地よかった。微妙な距離感。

 

街ですれ違った人、電車でたまたま同じ車両になった人の、今この瞬間までの人生を想像したりするだろうか。自分はよくする。この人の今までとこれからの人生の長い長い時間の中、この一瞬にだけ登場するという形で自分はこの人の人生に触れている、という感覚が好き。ほんの一瞬でいい。自宅の最寄り駅から大学の最寄り駅までの電車の時間では長すぎる。街ですれ違うくらいの時間でいい。長い時間をかけて強まった繋がりからは感じることのできない感覚がいい。有名作家Mの短編集に登場する人物たちの繋がり具合、科白から伝わる登場する人物たちの間の距離感や空気感が、人の人生に触れる時の感覚に似ているように感じた。という話。

 

(有名作家Mの短編集をかしてくれている友人へ。ずいぶん長い間借りてしまってゴメン。近いうちに必ず返します。)